2012年6月19日火曜日

里親詐欺


Q:
私が出した里親募集に対して,里親になることを希望して連絡してきた人に私の家の子犬を引き取ってもらいました。しかし,後日,その人が子犬に餌をやらず,そればかりかひどい暴力をふるうなどして虐待をしていることがわかりました。
この子犬を返してもらうことはできるでしょうか。

A:
【はじめに】
近年,ペットの「里親詐欺」が問題となっています。
里親詐欺とは,最初から譲り受けたペットを虐待する目的であるのにその目的を隠してペットを譲り受ける,最初から転売目的なのにその目的を隠して里親からペットを譲り受ける,など里親に本来の目的を隠してペットを騙し取るものです。
特に,ご質問のような虐待目的の里親詐欺に対しては,どのような法的手段が取れるでしょうか。

【ペットを返してもらうことができるか】
まず,ご質問にあるように「ペットを返してもらうことができるか」です。
里親に対してペットを譲る場合,無償であげた場合は「贈与契約」(民法549条)にあたります。
このような場合,ペットを譲る側は,里親に対して責任を持って飼育すること前提でペットを譲っていると考えられます。
従って,里親が最初から譲り受けたペットを虐待する目的であるのにその目的を隠してペットを譲り受けた場合には,里親になる者による詐欺を理由に契約を取消して,ペットの返還を求めることが考えられます(民法96条)。
 もっとも,実際にペットの引渡しを請求する際には,「そのペットであるとどのように特定するか」という難しい問題があります。ペットの種類や特徴などで引渡しを求めるペットがはっきりと特定できれば良いですが,実際には年月が経っておペットが成長するなどしてそのペットの特徴が変わっていることがあります。
このような場合,他人から見て問題となっている多数のペットの中から見分けられないため,特定が不十分として請求が認められないケースもあるようです。

【損害賠償を請求することができるか】
 里親になる者が,最初から虐待するつもりで適切に飼育するつもりなど全くないのに,「しっかり育てますよ」などと相手に言うなどしてペットを騙し取った場合には,その行為自体が不法行為となり,慰謝料等の損害賠償請求をすることができます(民法709条)。
 もっとも,この場合にも,裁判において,里親がペット所有者を「騙したこと」を立証しなければならず,これがなかなか大変です。

【里親詐欺をした者の刑事責任を追及できるか】
 近年,たくさんの飼い主を騙したり,複数のペットを騙し取りペットを虐待死させるなど悪質な里親詐欺を働く者を刑事告訴するケースが見受けられます。
 動物の虐待に対しては,動物をみだりに殺したり,傷つけた場合には,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処するとされています(動物愛護管理法44条1項)。
 それだけにとどまらず,最近では,相手方を騙して猫を騙し取った行為をもって詐欺罪(刑法246条1項)の罪に問われ,懲役3年執行猶予5年の判決が言い渡された事例があります(横浜地裁川崎支部平成24年5月23日判決)。詐欺罪となると,法定刑は10年以下の懲役と,格段に重い刑罰になります。
 しかし,そもそも,極めて悪質な動物虐待の事案に対応するためには,現行の動物愛護法の動物虐待に関する罪は法定刑が軽すぎるのではないでしょうか。
将来的には同罪の法定刑の引き上げが検討されても良いのではないかと思います。

・・・・・・・・・・・・

ペットの法律問題でのお悩み、ご相談ください。
担当弁護士のプロフィールは、こちら 
http://petlawtokyo.blogspot.jp/2012/05/blog-post_07.html

法律相談を行うまでの手順は、こちら
http://petlawtokyo.blogspot.jp/2012/05/blog-post.html

法律相談料・報酬については、こちら
http://petlawtokyo.blogspot.jp/2012/05/blog-post_9487.html
 

1 件のコメント:

  1. はじめまして。
    すごく為になるブログですね!
    ちなみに、お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?
    里親に対して譲渡人がペットを譲り、里親様がキャンセルして譲渡人(飼い主)にペット返したとします。その時にペットの状態・様子(下痢をするようになった、または食欲がなくなった、ストレス)や環境状態などが少し変わってしまったり、又、譲渡人の勝手な要求(文句、イチャモン、お金、脅し、嘘を付いた、マナー違反)などがあった場合はどういった対処になるのでしょうか?

    返信削除